尾辻さんが届ける「田んぼの学校」に込められた想い


Posted on 2014-12-24



突然ですが、みなさんは、お米づくりをやってみたいと考える事はありませんか?
今回は、調布の里山と呼ばれる地域で「米づくり」を通して地域の触れ合いの場づくりを、23年間もの間、継続して取り組まれている、尾辻義和さんのお話です。



尾辻さんは、北海道出身の調布暮らし。中学生の時に上京して以来ずっとこのまちに住んでおり、23年前からこの地で「米づくり」を通した地域交流を図る「田んぼの学校」を開講しています。
今回はその中の一大イベント「お米の収穫祭」にお邪魔しました。

さあ、この日を心待ちにしていた多くのご家族連れの方々が集まってきました!


来た方から順に輪に入り、手分けして料理を作ります。豚汁には、「田んぼの学校」でお手伝いしている畑で採れた無農薬の野菜も。



写真は子どもが作った「焼きみかん」…斬新ですね!地域に住む子育て世代の方の参加もあり、こども同士が戯れています。「焼きみかんいかがですかー!」子ども達の声が響きます。


普段なかなか出来ない「火をつける」作業を子ども達が試行錯誤しながら実体験!自然の力に触れられる貴重な機会です。


年間を通した授業「田んぼの学校」

田んぼの学校のプログラムは1年を通して行います。春には種を水につけて苗を育てるところから。
地域交流のプログラムであることから、皆で夏祭りへの参加も!自然に触れながら地域の方々の交流が生まれています。
 

写真は春の時期のもの。お米を発芽させるところからプログラムは始まります。


親子で一緒に稲を育てて行きます。


お米作りを通して実感した自然の教え

尾辻さん「実はお米づくりには、人のやってる作業はほとんどなくって、実際に関わっている人の手が関わっているのは、一年を通しても100時間くらいなんだよ。ほとんど太陽と水が稲を育ててくれてて、美味しいところを我々が食べているというね…。そう考えると自然に感謝しなくちゃって言う気持ちになるわけだ。」

尾辻さんは、機械による田植えを行わず、手植えをしています。昔ながらの方法をとることで、手はかかっても、より自然の恵みを受けた美味しいお米が収穫できるのだとか。


お米は人が生きる源

「自分でやってみてわかったけど、お米はお金に換わる価値があるって思うんだよ。人間、先ずは食べられるかどうかなんだから、食べるのに困ったら米づくりやればいいって思うよ。極端な例で言うと、お金がなくて自殺をしてしまう人もいる程だけど、お米があれば、先ずは食える。田舎で農家やってる人なんかは、お米はあるし、野菜もあるから食って行ける。でも都会育ちの人は、お金が無くなった途端、『もう生きられない』って思っちゃう人もいるって事だよね。それはちょっと悲しい。」


田植え体験を通した地域の親子の方同士の交流が生まれています。

やったらやった分だけ還ってくるからいい。

尾辻さん「第一次産品のお米だけに、"手をかけた分だけのものができる"っていうのが、やっていて感じることかな。逆に手を抜いたら抜いただけ、それ程のものが出来るもんだよ。特に業として米づくりをやっている人は、雑草に栄養をとられないように、手間を省くため除草剤を使うけど、安全のために手で雑草抜いている人もちゃんといる。その違いは明らかで、田んぼ見れば一目瞭然だよ。」



立派に育った稲!精米作業も皆さんで行います。

なければ工夫して作る。交換する。豊かなお金の使い方。

尾辻さん「昔は作るのが当たり前だったものが、みんな『なければ買う』という考え方になってしまっているよね。だからお金が必要になる。それで時間が無くなって、環境に悪くても便利な物が増え、それでゴミが増えて…という悪循環で自然が汚されてる。お米にはもみ殻、稲藁、捨てるものはなくて、全部使える。しかも主食だからもらって困る人がいないから、野菜農家の人と物々交換もできるしね。
お金が必要ないとは言わないけど、そこまで必要か?とは思うよ。ムダな物を作って捨てるよりは、本当に必要なものを作ればいいんだよ。その方が豊かでしょう?」



稲を干す作業の際も木材を再利用し、稲を束ねる紐も、丈夫な草で結びつけます。ムダになるものは使用しない。なるべく自然の物を使い再利用を心がけます。

尾辻さんの原点

尾辻さんがこの活動を始められたきっかけは、1つの疑問から。
それは、「子どもたちが野川で遊んでいる光景が見られないこと」だったといいます。この背景には、調布を通る「野川」への下水処理水の汚水の放流の影響がありました。




尾辻さん「元々は飲めるような湧き水の川なんだけど、都市化が進んで、下水道の整備が追いつかなくなってしまって。昔は当たり前だった光景が今はなくなっちゃってるんだよね。我々の時代、田舎ではプールなんかないから、海か川で泳ぐのが普通だったんだよ。」

目標は調布を通る「野川」を生き返らせる事

尾辻さん「野川も今は、下水も流れてるんだよ。そこの元々は湧き水だけで出来ていた川で飲める様な水が流れていたんだよ。でも時代と共に住宅が増えて排水が増えてきて…」



田んぼの横には奇麗な湧き水が流れ、この水ですくすくと稲は育ちます。

尾辻さんにとっての理想の野川を、現代の子ども達にも。なんとしても実現したい課題だそうです。

尾辻さん「それには二つの課題がある。一つは、湧き水だけのきれいな水にすること。二つ目が大事で、それは水量を増やすこと。人手不足だけど、都市化が進んで湧き水の量が減ってるのも何とかしたいんだ。」


大人の方も子ども達も一緒になって準備を楽しんでいました!





尾辻さんに野川を守ろうというお気持ちが、田んぼの学校に結び付いたきっかけを伺いました。

尾辻さん「野川の支流である用水路の清掃がきっかけで、近くに田んぼがあることを知った。で、一緒にやっていた会員から『お米づくりをやりたい』という声が上がり、たまたま知り合いの畑を持っている竹内さんが、造園業もされている関係で、稲わらがほしいので、手伝うという形でならとOKがでた。それが23年前の事だね。」


 

地域とのつながり

元々この田んぼは竹内さんのもの。そこを援農という形でお借りして田んぼの学校を運営している尾辻さんは、収穫したお米を買い取って、田んぼの学校に参加しているみなさんで分けています。お米づくりのお手伝いをしながら、お祭り等にも参加し、地域の方々の触れ合いの場を作って来られたのです。

 


 

米づくりを通した自然体験を地域の方々と共有したい


尾辻さんのゴールは「お米を収穫する事」ではありません。
 
尾辻さん「お米づくりやるんならその行程を全部学んでもらいたい。
よく田植えと稲刈りだけのバスツアーなんかでやってたりするけど、そうじゃない。ちゃんと生育を見られる場所で、どのように育っているのか見える環境で学んでもらいたい。」

そこで尾辻さんがお米づくりにつけた名称が「田んぼの学校」※(注)1でした。
活動を通して、お子さんには自然に触れてお米がとれるまでの過程、そして親御さんには、このような環境を残すことや、お米の大切さを体感してもらい、少しでも自然環境に興味を持ってもらえたらという想いからだったのです。

 

有志で続ける地域の場

尾辻さんには本業があります。IT業界でコンピュータソフト作りに携わっておられ、現在は介護老人施設の送迎ドライバーとしてのお仕事もなさっています。




尾辻さん「水や川をテーマとした市民活動をやっているのは、自分の生い立ちに関すること(自分ごと)だから。こっちに来るまで川ってのは遊ぶ場所だと思ってたけどそうなっていなかったんだよ。
高度成長時代、下水道対策、排水対策で都会の川は遊ぶ対象ではなく、行政の管理する排水路となっていた。最近になって、下水道も整備され、排水対策も広域での対応にかわり親水化が進んできた。
結局そこは行政の取り組みとして、管理が行き届かないところだった。行政もよっぽど余裕がない限り、対応が難しいのも分かる。
でも、もう少し野川のあり方についてみんなに関心をもってもらうことできないのかなって。快適な生活ってなんだろうっていうのを考えてもらえる機会を作りたくて続けてる。」


取材中も、尾辻さんの周りには多くの子どもたちが集まってきてくれました。


そして話は後継者の話に…
「ただね、田んぼの学校を始めて、逆に川で遊ぶ事が減ってしまって…。その原因は人手不足。なかなか手が回らなくてさ。やっぱり田んぼや畑を引き受けた以上責任がある。後継者もやはり考えるけど、そこまでやりきれる人、いるのかな…。」


 
この後、私たち取材班との会話の中で、「後継者探しは時間はかかるもの」という話になりました。確かにいきなり後継者を見つけるのは難しいかもしれません。でもこの取り組みに参加してみて、自然の豊かさや尾辻さんの想いに触れるうちに「やってみたい」と思ってくれる方が出てくるかもしれない。そう思っていると話してくれました。
 
そして来年もきっと尾辻さんが想いを持って取り組む田んぼの学校の、24年目の春がまたやってきます。



※注1 平成10年度、国土庁、文部省(いずれも名称は当時)、農林水産省の3省庁合同の調査(「国土・環境保全に資する教育の効果を高めるためのモデル調査」)において、各界有識者による研究会が設置され、水田などを積極的に活用した環境教育「田んぼの学校」が提唱されました。


(記事 : 熊野 恭子 / 
写真 : 薩川 良弥)

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調布 田んぼの学校




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