スローな時間が流れる地域の素敵なたい焼き屋さん「喫茶みよし」


Posted on 2014-12-15



働くことに対して、お金を稼ぐ事や、地位や名誉よりも「充実」を求めたい。
価値観の変化につれてそんな事を考える方が増えているといいます。
みなさんはどんな風に考えますか?

「自分ごとで人の役に立ちたい」
「小さくでも繋がりながら」

自分の手の届く範囲でお客さんとコミュニケーションしながら働く仕事。
ゆっくりとのんびりと。そんなスローライフを送りながら小商いを続ける女性がいます。

今回はそんな地域の素敵なたい焼き屋さんをご紹介します。

 

京王線調布駅から一駅

 

場所は京王線「京王多摩川駅」
多摩方面に延びる京王相模原線に乗り、調布駅からは一駅です。

 

京王線の高架橋が頭上を通ります。
 

改札を出ると、西側には植物園。東側には商店街。線路沿いを北に行くと数分で多摩川の土手に出ます。 
 

改札を出て徒歩5秒…!植物園。バーベキューもできます!
 

日本家屋の半分が精肉店。もう半分がおそば屋さん。
 

晴れた日は気持ちがいいオープンカフェ。
 

小鳥がお客さんを待つ定食屋さん。
 

手作りのコロッケが美味しそう!

 

そこに一軒、ひっそりと佇む昔ながらのお店があります。

 

改札を出て右に行くと..
 

見えてくる赤いのぼり。「たい焼き」の文字。 
 

喫茶みよしです。

 

ここにいる内田不二子さんは、お一人でたい焼きを焼きながらいつもお客さんの来店を待っています。

こんにちは。たい焼きください
「はーい。待っててね。すぐ焼けるから。」

内田さんは陽気な笑顔で迎えてくれました。そして焼きながら話します。

「皆あんこが違うって言うのよ。自分で小豆を煮てるからね。分かる人には分かるのね(笑)」
内田さんはおしゃべりがお好きな様です。雑談を交わす内にたい焼きが出来ました。

 

「お待ち遠さま。」

 

 

やさしい味がする手作りのあんこがたっぷり入っているたい焼き。1つ130円。

オレンジジュース300円。(photo 松本 茜)

 

ー営業時間は何時からなんですか?
「大体11:00くらいから17:00くらいまでかなぁ。まぁ適当ね。」


ー決めてないんですか?
「そうね。なんとなく決めてるけど…。休みも不定休だしねぇ。自由よ。
用事があったりしたらね、休んじゃう。
今日は煮物を作ろうという日もちょっと早く閉めちゃう事もあるわ。
火をつけっぱなしだと焦がしちゃうから(笑) 雨の日も早く閉めちゃうし。」

ー明日は雨の予報みたいですよ
「あらそう。明日になってみないとやるかわからないね(笑)まぁ適当にね。」

「適当。」内田さんはこの言葉を良く使います。でも言われて悪い気がしません。
"いいかげんである"というネガティブな意味ではなく、"程良く自分が出来る範囲でね"そんなニュアンスで。
そんな風に思うのは、たい焼きが本当に美味しいから。
ほくほくのたい焼きは、まるで母親の愛情が込められている様。そんな優しい味がします。

 

(photo 松本 茜)


44年もたい焼きを焼き続ける理由は

 

ーこのお店は何年やってるんですか
「43..44年..かな。そのくらいになるわね。」


ーすごい!長続きしてますね。長続きの秘訣ってなんですかね?
「ん~…わからないわよ。まぁ適当にやってるからね。」


そんな内田さん。こんな事を話してくれました。


「ある日、女性がお店にやってきてね。近くにお勤めの様で、しばらく通って下さってたんだよ。
そこで『こんなにたい焼きが美味しいのにお客さんがなかなか来ないね…って』心配してくれてて、
なんていうの…インターネットだっけ?それに書いてくれるって言ってたんだよ。


内田さんは続けます。
「その人は仕事が変わったのか、その後来なくなっちゃってさ。
でもそのあと急にお客さんが増えたのよ。雑誌の取材とかも来て。…きっとその人が広めてくれてたのよ。
でも住所も教えてもらってないし。そのあと顔を合わせられてなくて。
今はインターネットにも(みよしの事が)沢山載っているらしいのよ。
…でも私はインターネット出来ないから、見た事無いんだけどねぇ(笑)」


内田さんの地道な姿勢に心打たれる人がきっと何人もいらっしゃる。そんな事を感じさせられるお話でした。
色々な方に支えられ、応援されながら44年間を歩んできたみよし。
その応援の恩返しの気持ちが内田さんを動かしているのでしょうか。
そんな「ありがとう」の循環が、もしかしたらこのお店が醸し出す温かさの源なのかも知れません。

 店内にはブログの紹介や雑誌で紹介された物の切り抜きが貼ってあります。
 

あそびごころが大事。現代の宿場町

 
「たい焼き3つちょうだい。」
 
近所の方がたい焼きを買いにきます。

「元気そうねぇ!」
「あらやだ!怪我しちゃって少し入院してたのよぉ!」
「あらそう、お互いに気をつけないとね。私もそうだもん。ちょっと気をぬくと転びそうになっちゃって…(笑)」
 
お母さん同士の会話と共に、たい焼きが焼けるいい香り。
焼きたてのたい焼きを持って、お客さんは嬉しそうに帰って行きました。




ー常連さんですか?
「うん、いつも散歩のときに寄ってくれるんだよねぇ。
でもこうやってたい焼きだけ売ってても儲からないのよ(笑)
でも損しなけりゃいいのよ。」
 
そう話す内田さんはとても楽しそうです。

 

日常に必要な「あそびごころ」

 

内田さんの一日には「あそびごころ」があります。
それは心をワクワクさせてくれる様なあそび。普通に過ごせば通り過ぎてしまう日常を面白がる。ありきたりな日常は自分でいくらでも面白く出来ます。例えばこんな感じ。
 
ーこれなんですか?


店先にお米の様な物が盛ってありました。

 
「お米よ。」
 
ー何の為ですか??
 
「いつもすずめにあげてるの。」
 
毎日みよしの前にすずめ達がご飯を食べにやってくる様です。
 
「今日は来ないわねぇ。皆で相談して別の場所に行っているのかしらね(笑)」


「宿場まち」としての京王多摩川


 

「こんにちは、焼きそばください。」
 
お客さんがやってきました。
 
お客さんと気軽に話せる雰囲気もみよしの良い所。自然と会話になります。
ーお近くなんですか?
「川崎の方から川沿いを自転車で走ってきました。丁度ここら辺が休憩場所としてちょうど良くて。」


みよしがある京王多摩川駅は、多摩川のサイクリングロードが通ります。

確かに調布周辺では休めるところはこの辺くらいかもしれません。

赤い線が多摩川を走るサイクリングロード (©OpenStreetMap Contributors)


和泉多摩川駅や是政駅付近等、多摩川に架かるの橋の近くは駅があったりと、多少お店が並ぶエリアもありますが、中でもこの京王多摩川付近は、昔ながらの建物が並ぶのんびりとした雰囲気があります。東京都側の土手を自転車で走る方に取っては確かに一休みしたくなる場所!
昔で言う宿場町の様です。このまちはそんな役割も果たしてくれている様です。



…そんな事を考えている間に焼きそばを食べ終えたお客さん。そして一言。
 
「すいません!たい焼き一つ!」
 
やっぱりここに来たらこれは頂かないと!(笑)


 多摩川の河川敷をはしるサイクリングロード。晴れた日はとても気持ちが良いです。

 

地域の人の憩いの場所


…ゆっくりとした時間が流れる喫茶みよし。


 

入れ違いのタイミングで次のお客様は女性の方でした。

「私もやきそば。もうちょっと早かったら一緒に焼けたのにねぇ。ごめんね。」

実は焼きそばも人気メニューです。
 
「わたし、このお店40年通ってるのよ。」
 
ー40年ですか!?結構頻繁に通われているんですか?
 
「昨日も来たわよ(笑)」
 
窓の向こうから別のお客さんが。
 
「すいませんー!たい焼き4つください!」

 
「はいはい!待っててね!」
 
手早くたい焼きを包む内田さん。
午後1時。少し忙しくなってきました。
 

 

女性のお客さんに尋ねてみました。
ー40年も通われてて。このお店のファンなんですね。
 
「焼きそばが好きなの。ここの焼きそばが。うちの近くにもあるんだけど、やっぱりここね。」
 
調布にこういう場所はいくつ残されているのでしょうか。

 

 

「はい、お待たせ。」
 
内田さんができたての焼きそばを持ってきます。店内にソースのいい香りが漂います。

 

ソースが焼ける香ばしい香りの焼きそば。卵が一緒に焼かれて目玉焼きの様な形で中に入っている満足感のある一皿。550円。その美味しそうな香りに誘われて僕も注文する事に…。

 

みよし44年の歴史の幕開けも「適当に」


 

隣の女性が話します。
「昔に来てた子供も、もう50歳超えよ。」
 
たい焼きを焼きながら内田さん。
「そうだねぇ。たまに来るよねぇ。昔たい焼き食べましたって子が。
だけど(歳をとって)全然分からなくってねぇ(笑)」
 
一同笑
 
ーずーっとたいやき屋を?
「そう。あと焼きそばと夏は氷(かき氷)ね。」
 

 

ーちなみに「みよし」ってどんな意味なんですか?
 
「電話番号が”~3448”で”み、よ、し、や”よね。
で最後に”~屋”はちょっと野暮ったいからね。それでみよし。」
 
ー適当ですね!
 
一同笑
 
ーなぜたい焼きを?
 
「甘いの当時は好きだったし、この周りにたい焼き屋が無かったのね。
最初、今川焼だっけ?丸っこいのがいいんじゃないかなぁと思って、合羽橋に行ってね。そこにたい焼き器があったものだから、たい焼きの方がいいってなって。そんなのやった事もなかったのにね。」
 
ー適当ですね!!!!

 
一同笑

笑い話、真面目な話…いずれにしてもこの場所は何故か温かい雰囲気に包まれる。
 

皮の材料の仕込みをする内田さん。出来具合は熟年の勘も重要だとか。
 


地域の方も良くお店の前を通ります。

喫茶みよしのこれまでとこれから

ーお仕事は楽しいですか?
「やだな、とは思わないよね。思ったら40年はできないねぇ。」
 
ー今までやってきてやだなって思った事は?
「ないねぇ。」
 
本人の目の前でできる範囲をはみ出さない。
自分のできる事をできる範囲で。そんな働き方、暮らし方の信念がここにある気がしました。
 
ーそもそも、みよしをやろうって思ったきっかけは何ですか?
「京王線が、川の方も通るって時に
その周辺の住宅の人が、ここら辺に移動する事になってさ。」

 
 

ー相模原線ですね
「そう。川の方に京王遊園のプールがあったのよ。その辺に住んでたんだけど、こっち側(今の場所)に来る事になって。
それでこの辺を商店街にしようってことだったので一階をお店にしようってなったの。それからよ。丁度私も働こうかって時だったしねぇ。」
 
ーなるほど
「だから家賃は考えなくていいから、損しなきゃいいかなって。でも当時は凄かったのよお客さん。今でも近くでお祭りか何かあると、ここに(店内の外を指差して)並ぶのよ。そうすると大変よ。焦っちゃって(笑)」
 

 

ーそうですか。お手伝いでもやりたい人、いそうですけどね
「アルバイトを雇える程じゃないからね。
みんな(常連さんが)見かねて手伝ってくれたりはするわよ(笑)」
 
喫茶みよしはお客さんとの距離感が近い。いい意味で友達の様です。
初めての方でも、何回もここに来た事がある様な。
だれでも受け入れてくれる様な優しい空気感を感じます。そして話はこの先の未来の話題に。
 
ー今後、この場所はどうするんですか?
「どういうこと?」
 
ー…もしお店を続けるのが難しくなったら
「うちは貸したら手放したと同じと思ってる。自分の暮らしたいように暮らしたいと思って、だから自分で今のたい焼き屋を続けてきたの。」
 
ーこんな素敵な場所、閉めてしまうのはもったいないですよ!
「もう跡継ぎいないから。私が出れなくなったらもう閉める。これは決めてる。
私の子供もやらないしね…。」

 

 
ーもしお子さんがやりたいって言ったらどうします?
「言わないわよ。そんなこと。」
 
ーもしです。もし!
「もし私がいなくなったらその時はもう私は分からないからね。
…ん~それは誰にも分からないわよ(笑)」
 
40年以上もこの場所に在り続けてきた場所。
時間が築く絆。働き手の想いと温もり。これが内田さんの人生と言っても過言では無いと感じました。
色々な物をぎゅっと詰め込んで、内田さんは今日もたい焼きを焼きます。
余計な物は求めない。自分のいいと思った事を、自分のできる範囲でやる。
働く事を嫌だと思った事が一度も無い内田さんからは、教わる事がいくつもありました。
 
多摩川沿いを東西に通るサイクリングロードを行く人々の"宿場的なまち"京王多摩川。
この場所で今日も私たちを待ってくれている、そんなたい焼き屋さんが「喫茶みよし」です。

…あっ、またお客さんがやってきました。

 


(記事/写真 : 薩川 良弥)
 
―喫茶みよし―
席数12
 

menu
たい焼き 130円 ※テイクアウトOK!
焼きそば 550円
おしるこ 500円
オレンジジュース 300円
コーラ 250円
etc... 

tel : 042-482-3448
住所 : 調布市多摩川 5-6-4
営業時間 : 11:00くらい~17:00くらい
不定休

 




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